- 自動車メーカーへの転職を考えているエンジニア
- IT業界やサプライヤーから、完成車メーカーに移るか迷っている人
- 自動車メーカーに入って「思っていたのと違う」と感じ始めている人
「自動車メーカーに転職すれば、最先端の技術に関われて、給料も上がるはず」。そう考えて転職を検討している人は多いと思います。
私は自動車メーカーで、AIを使った自動運転の開発をしている入社5年目のエンジニアです。仕事は、AIを実際の車両に載せて、きちんと動かすところまで。リクルーターとして学生と話す機会もあり、自分自身もコンサルへの転職活動を経験しました。
この記事では、自動車メーカーに転職して後悔しやすい人の特徴を、現役AI実装エンジニアの視点で本音で解説し、最終的にあなたが転職する前に確かめておくべきことを提示します。
- ① 高い給料水準を求める人:昇進は入社年次で進み、年収が一気に上がることは少ない。コンサル業界などと比べると、年収は低い傾向にある
- ② 高い技術力そのものを求める人:電子系は内製が少なく、ユニットの中身に詳しいのはむしろサプライヤー(バンパーのように内製の多い部品は別)。完成車メーカーに求められるのは「車に合わせる」力
- ③ 令和らしい、華やかな職場を求める人:全体的に昭和の考え方が残る、いわゆるJTC。部署で雰囲気は違うが、商社やコンサルのような華やかさは少ない
なお、ここに書くのは一人のエンジニアとしての私の実感で、会社の見解ではありません。会社や部署によって事情は変わります。
特徴①:高い給料水準を求める人
自動車メーカーは、大企業ならではの安定があり、福利厚生や長い休みも充実しています。ただ、「年収を大きく上げたい」という目的で転職すると、後悔しやすいと感じます。
昇進は、入社年次で進んでいく
私の感覚では、自動車メーカーの昇進は、入社年次でだいたい同じくらいのステップで進んでいきます。成果を出しても、年収が一気に上がることは、あまりありません。
私自身、入社5年目の今の年収は、残業代込みで約750万円です。残業代を除くと、もう少し下がります。
人気の部署でも、給料は同じ水準
海外のメーカーでは、同じ会社の中でも、ADASのような今注目されている部署に配属された人は給料が高い、ということがあります。一方で、日本のメーカーは、どの部署でも同じくらいの水準で仕事をします。
そのため、ADASやSDVのような分野の人材には、ほかの業界からより良い条件のオファーが届きやすく、人材が外に流出しやすいという側面があります。ADASのような分野を目指して転職する人は、この点も知っておくとよいと思います。
コンサル業界と比べると、年収は低い傾向
一方で、転職活動でコンサル業界の選考を受けてみると、提示される年収の水準は違いました。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 今の年収(残業代込み) | 約750万円 |
| 日立コンサルティングの内定(年俸+賞与) | 約850万円 |
| ベイカレントで、私の年次で転職した場合の目安(人事面談で伺った数字) | 約900万円 |
これは、外に出れば年収が上がる、というより、そもそもコンサル業界などと比べると、自動車業界の年収は低い傾向にあるということだと思います。
とはいえ、全業界を見渡せば、自動車業界の年収は決して低い水準ではありません。大切なのは、入る前に年収のレンジを調べて、それに納得できるかどうかです。納得できるなら、入ってから後悔することはないはずです。
詳しい数字と選考の流れは、年収を上げるキャリア戦略の記事にまとめています。
特徴②:高い技術力そのものを求める人
意外に思われるかもしれませんが、「最先端の技術を深く極めたい」という人も、後悔しやすいと感じます。
電子ユニットの中身に詳しいのは、むしろサプライヤー
特に電子系は、完成車メーカーの中で作る(内製する)領域が多くありません。ECUのような電子ユニットについて、完成車メーカーとサプライヤーのどちらが詳しいかと聞かれたら、正直に言えばサプライヤーです。
ただし、これは領域によります。たとえばバンパーの設計のように、ハードウェアの部品を社内でしっかり作り込んでいる部署では、技術についてもサプライヤーより詳しいことがあります。
つまり、技術の深さを求めて自動車メーカーに入るなら、やりたい技術を、その会社が社内で作っているかどうかが分かれ目になります。

完成車メーカーは「車屋」
完成車メーカーは、言ってみれば「車屋」です。求められるのは、ユニットをどう作るかより、ユニットをどう車に合うように作るかです。
たとえば、AIを車に載せるときも、AIモデルそのものより、その外側が仕事の中心になります。
- 安全の仕組み:AIが何を出しても、車として異常な動きを止めるフェールセーフ(E2Eの記事)
- 定数の合わせ込み:机の上で決めた値を、試作車で走らせながら適合する(ADASの設計の記事)
- ユニット同士をつなぐ:センサー、ECU、配線、ソフトウェアを一台の車としてまとめる
技術の「深さ」より、技術を車としてまとめる「広さ」が求められる仕事です。AIについても、自社だけで作るより、AIベンダーとの協調が欠かせません。この点は自動車メーカーが求める人材の記事にも書いています。
一つの技術を深く掘りたいなら、その技術を専門に扱うサプライヤーや、IT企業の方が合っているかもしれません。
特徴③:令和らしい、華やかな職場を求める人
三つ目は、今どきの華やかで、きらきらした職場で働きたい人です。その期待のまま自動車メーカーに入ると、理想と現実の差に戸惑うかもしれません。
全体的に、昭和の考え方が強く残っている
開発の現場は、部署によって雰囲気がかなり違います。それでも全体として見ると、昭和の考え方が強く残っていると感じます。いわゆるJTC(Japanese Traditional Company:日本の伝統的な大企業)です。
年次で進む昇進や、関係者が多く会議で物事を決めていく進め方にも、その色は表れています。働く人は、真面目な人が圧倒的に多いと感じます。派手さより、黙々と仕事に取り組むタイプです。一日の働き方は、AIエンジニアの1日の記事に書いています。
部署によって、雰囲気はかなり違う
| 部署の例 | 雰囲気(私の印象) |
|---|---|
| 外装設計、シャシー設計など、昔からある部署 | 歴史が長く、昔ながらの体育会系の雰囲気が残っている。飲み会も、けっこう派手にやることがある |
| ADAS(運転支援)の設計など、新しい部署 | 創設からの歴史が浅く、若手が多い。高学歴で研究志向の人が多く、雰囲気は静かな部類 |
同じ会社でも、どの部署に配属されるかで、毎日の空気はまるで変わります。
商社やコンサルのような「きらきら感」は少ない
飲み会がにぎやかな部署はあっても、女性が多く華やかで、きらきらしている、といった商社やコンサルのような雰囲気は、あまりありません。
職場の華やかさや、今どきの働き方を大事にしたい人にとっては、物足りなく感じるかもしれません。一方で、落ち着いた環境で、じっくり仕事に向き合いたい人には合う職場です。特にADASのような新しい部署は、研究室に近い静かな雰囲気なので、理系の大学院から来た人にはなじみやすいと思います。
そのほかに、転職前に知っておきたいこと
3つの特徴のほかにも、「入ってから知った」となりやすい点を挙げておきます。
勤務地:設計・開発なら、基本的には固定
設計や開発の仕事であれば、勤務地は基本的に固定です。最近は、SDVなどの先進開発の拠点を東京や大阪に増やす動きが各社で見られますが、実際に異動することはほとんどないと思います。
一方で、工場の仕事の場合は、転勤があると聞きます。職種によって事情が違うので、応募する前に確認しておくと安心です。
中途入社のなじみやすさ:メーカーによって大きく違う
中途で入った人の昇進や、職場へのなじみやすさは、メーカーによって大きく違います。中途入社でも歓迎する雰囲気のメーカーもあれば、新卒から育った「生え抜き」を大切にする文化が強いメーカーもあると聞きます。身の回りの知人に話を聞いても、おおむねその通りのようです。
中途で入るなら、そのメーカーで中途入社の人がどれくらい活躍しているかを、面接や実際に働いている人に聞いておくのがおすすめです。
残業:ADASは多め。業界全体ではかなり少ないはず
私のいるADASの領域は、残業がかなり多い方です。時期によって、19時台に帰れることもあれば、22時まで働く日が続くこともあります(AIエンジニアの1日の記事)。
ただ、これはADASが特に忙しいからで、自動車業界全体で見れば、残業はかなり少ない方だと思います。私のイメージでは、9時ごろに始まって19時ごろに終わるのが一般的で、平均の残業時間は月20時間以内くらいです。金曜日は早めに切り上げる「花金」の文化も根強く残っています。
残業の多さは、部署によって大きく違うポイントです。
逆に、自動車メーカーが向いている人
ここまで後悔しやすい特徴を書きましたが、もちろん、自動車メーカーならではの良さもあります。
| 向いている人 | 理由 |
|---|---|
| 落ち着いた環境で、安定と休みやすさを大切にしたい人 | 大企業ならではの安定があり、有給も取りやすい。真面目な人が多く、落ち着いて仕事に向き合える |
| 技術を「まとめる」側に回りたい人 | いくつもの技術を、一台の車として形にする仕事 |
| 自分が関わったものが形になる手応えがほしい人 | 担当した車が試作車として形になったときのやりがいは大きい |
| 若いうちから任されたい人 | ADASのような新しい部署は若手が多く、5年目でチームを引っ張る役割を任されることも |
後悔しないために、転職する前に確かめたいこと
- 年収のレンジ:入社年次でどう上がっていくのか。残業代を除いた年収はいくらか。それに納得できるか
- 内製の範囲:やりたい技術は、社内で作っているのか、サプライヤーに任せているのか
- 職場の雰囲気:配属される部署は、どんな雰囲気で、どんな年代の人が多いか
- 中途の受け入れ:中途入社の人がどれくらい活躍しているか。勤務地や残業の多さも、職種と部署で確認する
- 自分の市場価値:今の経験が、社外でどう評価されるのか
最初の四つは、面接の逆質問や、実際に働いている人に聞くと確かめやすくなります。特に職場の雰囲気は、部署によって大きく違うので、配属先の部署の人に聞くのが確実です。最後の市場価値は、転職エージェントやスカウト型のサービスに登録して、どんな会社から声がかかるかを見るのがいちばんの近道です。
まとめ
- 昇進は入社年次で進み、コンサル業界などと比べると年収は低い傾向にある。ただし全業界で見れば低くはないので、年収のレンジを事前に調べて納得できるかが大切
- 電子系は内製が少なく、ユニットの中身に詳しいのはサプライヤー。一方で、バンパーのように内製の多いハードウェア部品は、完成車メーカーの方が詳しいこともある
- 全体的に昭和の考え方が残る、いわゆるJTC。部署によって雰囲気は大きく違い、昔からある部署は体育会系、ADASのような新しい部署は若手が多く、研究志向で静か
- 設計・開発の勤務地は基本的に固定。中途のなじみやすさはメーカーによって大きく違い、残業はADASのような忙しい部署以外はかなり少なく、月20時間以内のイメージ
- 一方で、安定、休みやすさ、形になる手応え、若いうちから任される環境という良さもある
- 転職する前に、年収のレンジ、内製の範囲、配属先の雰囲気、自分の市場価値を確かめておく
自動車メーカーは、合う人にとってはやりがいの大きい職場です。後悔するかどうかは、何を求めて転職するかで決まります。
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